タッタッタッタッ……。

話し声に交じって、駆け足で地面蹴る音がこちらの方へ近付いて、やがて私の目の前でその足音は止まった。
俯いた目線の先には、見慣れた黒の革靴がある。

ゆっくりと顔を上げると、そこには岡田さんの姿があった。

息を切らし額に汗がにじんでいて、急いでここに来たことが見ただけでもわかる。

でも、仕事中じゃ……。

「ど、どうして……?」

突然の出来事で、そこから先の言葉が出てこない。

どうしてここにいるの?って言いたかったのに、何日かぶりに会えたことが嬉しいのと、苦しいのと、色々な感情が入り混じって、なにも言えなくなってしまった。


「俺が連絡したんだ。そうしたらすぐ行くと言われてな」

「え……」

「連絡ありがとうございます。里緒奈、大丈夫なのか?」

「命に関わるものじゃないから……。それよりも岡田さんこそ……」

戸惑う私をよそに、課長は安心したように息をふう、と吐くと席を立つ。
そして岡田さんの肩を叩いた。

「悪いな、岡田くん。いいのか?このまま真壁を任せて」

「問題ありません。今日は早退してきたので」

「そうか、じゃあ真壁を頼む。真壁、今週はゆっくり休め。会社も仕事も気にしなくていいから、しっかりと休むんだ。後のことは全部俺が処理しておくから」

「……はい」

「じゃあな」、と言って課長はいなくなり、待合室は私たちだけになった。

岡田さんは向かいに立ったまま、なにも言わず私をじっと見下ろしている。
その視線がとても痛くて、思わず目線を下に逸らした。