……それって、結婚、ってことだよね?



そこまで考えてくれているのは、嬉しいけど。
でも、なぜ?

……どうしてか素直に喜べない。
なぜかあることが引っかかってしまって、その言葉に対していい返事をすることが出来なかった。

「そんな、今すぐって。結婚ってこう、なんて言うかもっと愛を深めていって、それでお互いの両親に挨拶してさ、それからゆっくり」

「挨拶なら、今度の正月休みにでも行こうよ。お互いの家に行ってさ。俺の実家そんなに遠くはないし、早めに紹介したかったし。里緒奈の実家にも行ってみたいし」

「……ねえ、どうしてそんなに急いでるの?」

岡田さんの話を遮るように、私は聞いた。

……そう、引っかかっているのはそこだ。

将来を考えてくれているのは嬉しい。
自分をそこまで思ってくれることも、もちろん嬉しい。

けど、どうして春先なんて、私が良ければ今すぐにでもなんて、なんでそんなに急がなきゃいけないの?

もっと沢山お互いのことを知って、話して、それからゆっくりと将来を決めてもいいと思うのに。

なぜ……?
どうして、駆け込むように結婚を?

「……別に、急いでなんか……。ゴメン、少し困らせたか。さっきの言葉、あまり気にしないで。……でもそれだけ俺は里緒奈を好きだってことだからさ」

そう言う岡田さんの表情は浮かない。

それから会社に着くまで、岡田さんはなにを話さなかった。
車を運転しながらずっとなにかを考えるように、神妙な面持ちで車を運転していた。

会社に着いて降りるとき、前みたいにいってらっしゃいのキスをせがむことはなく、岡田さんは少し笑みを浮かべて「じゃあね、頑張って」と言っただけだった。

けど、そのときの顔は、なぜか切なさを含んだ笑みで。

小さくなっていく岡田さんの車を見つめながら、私の心はズキリと痛む。

……どうして?
どうしてそんな顔をするの?

私の心の中はずっとモヤモヤしたままで、仕事中もそれは晴れることはなかった。