岡田さんは私の話を聞き終わるなり、大きなため息をついた。
そして、おもむろに身体を助手席の方へ身を乗り出すと、私の頬をつねる。

「あ、あだだだだ」

「里緒奈こそ、どうでもいいことで拗ねてんじゃん。なにやってんの」

そう言って、岡田さんは困ったように笑う。
久しぶりの笑みに、心なしかホッとしてしまった。

「バカだなぁ。俺言ったじゃん、今のままの里緒奈がいいんだって。外見が綺麗だとか、周りから見て似合う似合わないとか、そんなの俺には関係ないんだって。俺は里緒奈がいいの。そのままの里緒奈が好きなんだよ」

その言葉に、心がほわりと温かくなっていく。


――そのままの自分。

なんにも取り柄なんてないのに、岡田さんはそんな私のことを、それでも好きだと言ってくれた。


……嬉しい。
その一言が、どうしてこんなにも心に響くんだろう。


「……岡田さん」

「ん?」

「いつ、私を好きになったんですか?」

それはずっと気になっていたことだ。
いつ、どこで、私を好きになったのか。

岡田さんは頬から手を離し、少し考えるような表情をしたあと、話し始めた。

「そうだね。最初は男だけの職場で、ひとり研磨している女の人が珍しいな、と思っただけ。だけど、毎回行くうちに、だんだんと気になっていったんだ。里緒奈は気付いていないだろうけど、部品を研磨し終わるたびに、安堵するように少し笑みを浮かべるんだよ。知ってた?」

「え?そ、そうなの!?」

「あはは、気付いてなかったか。研磨し終わると、少し口角を上げて部品をじっと確認しているんだよね。『上手く削れたぞ、綺麗に出来たぞ』って声が聞こえそうなくらい。そのときの笑みがやけに可愛くてさ。保護メガネしていてもとても美しく見えたんだ。そこからだよ、ずっと気になって、それで知らない間に好きになってたんだ」