車を走らせること三十分ほど。
KIZUKIの工場へと着く。

入り口の守衛へ声を掛け、許可を貰って工場の敷地内へと入る。
周りへの騒音対策のために、敷地内はたくさんの木々が植えられていた。

冬も近く、その木々の葉はほとんどが落ちかけていたが、地面には落ちた葉はあまりない。
工場内ももちろんのこと、工場の外もしっかりと管理されているのが分かる。

来客用の駐車スペースに車を止め、正面玄関をくぐった。
中に入ると、白を基調とした清潔で広い空間が広がっている。

入ってすぐ右側には来客用の受付があり、綺麗な女の人が座っていた。

「すみません、菱沼精密工業の真壁と言います。生産技術課に頼まれた部品を持ってきたのですが……」

「いつもお世話になっております。生産技術課ですね。少々お待ちいただけますか?」

そう言うと、受付の女の人は電話をかけ始めた。
その間、少し手持ち無沙汰になってキョロキョロと辺りを見回す。

相変わらず綺麗な工場だ。
無機質で煤けたうちの工場とは偉い違い。

受付の人も綺麗だし、なんかもう全然世界が違う。
こんな作業着でここにいることが、なんか恥ずかしくなっちゃうな。


「お待たせ致しました。それではそちらの部品を私の方で預からせて頂きますね。わざわざありがとうございます」

「いえ。ではこちらこそよろしくお願いします」


受付の女の人に部品を渡し、軽く礼をして出口へと向かった。


結局岡田さんとは会うこともなく終わりそう。
少しホッとしたような、でも少し寂しいような。


そんな微妙な感情にかられながら、車に乗り込む。
キーを回してエンジンを掛けたとき、ふとそれに気付いた。