「岡田すまん、急遽この部品の研磨お願いできないか?」

午前の十分休憩中。
休憩室で缶コーヒーを飲んでいるところに、部品の入った箱を持った東雲課長が現れる。

「いいですよ。数はどのくらいですか?」

「試製だから十個ほどだ。一時間もしないで終われると思う」

私は持っていたコーヒーをテーブルに置くと、部品の箱を受け取った。
見た目、形は今研磨しているものとさほど変わらない。

「この部分をな、今までのよりも五ミリほど深く削って欲しいんだ。それとな、この部分を……」

課長から細かい指示を受ける。
その指示を胸ポケットに入れていたノートに、メモしていく。

"試製"ということは、新たなエンジンの開発なんだろう。
試製で上手くいかなければ、世に出ることはない。

これを指示通りに研磨できるか。
それは腕の見せどころだ。

「でな、もうひとつ頼みたいことがあってな。研磨が終わって部品チェックが済んだら、この部品をKIZUKIの工場まで持っていって欲しいんだ。受付で生産技術課にって渡せばいいから」

「え!?なんで私が!?」

「午後から全体の役職会議があってな、行ける奴がいないんだよ。あっちからはなるべく急ぎでって言われてるしよ。今回は申し訳ないが頼む。それによ、もしかしたら会えるかもしれないだろ?」

「……は?」

「またまたしらばっくれちゃって。岡田ちゃんだよ。……って、いつも会ってるか?」

「……会ってませんよ」

課長はニヤニヤと私を見て、そして「頼むなー」と言いながら休憩室を出ていった。

ったく、いらない気遣いだよ。
会えるかもなんて期待はしてないっての!

……まあでも。
連絡もないし、もし会ったら大丈夫?の一言くらいは掛けてやろうか。