なんでこんなに、咲良の言葉がすとんと入って来るんだろう。
もやっとした心の中が、少しずつ晴れていくのが分かる。

「自信なんて、あとからついてくるから。アンタらしくないよ、そんなんでうじうじと。いつも自分の気持ちに素直に突っ走ってきたでしょ?そこが魅力なんだよ、多分。岡田さんって人は」

「そう、なのかな……。いまいち自分ではわからないや」

「あとは里緒奈次第だね。でも少しはスッキリしたんじゃない?せっかく久しぶりに飲みに来たんだし、あとはたらふく飲もうよ。迎えは旦那が来てくれるから、帰りも心配ないよ」

「え?旦那さん送ってくれるの?」

「うん。里緒奈、旦那と会うのは半年前に里緒奈が家に遊びに来たとき以来だっけ?あっちも会いたがってたよ~」

そこから咲良とたわいのない話をして盛り上がり、何日かぶりに、気持ちのいい酔い方をした。

持つべきものは友達。
咲良が私の友達でいてくれて、本当に良かったと思っている。


帰る頃になり、咲良が旦那さんに迎えに来るよう連絡して、何分か後に店の前に着いたと電話が入ったあと、私たちは店を出た。

「あ、光輝(こうき)!ありがとう、迎えに来てくれて」

咲良は夫である光輝さんの姿が見えるなり、そう声を掛ける。

店の前には車高の低い黒塗りのセダン。
その車の前に、ガタイの大きな坊主の男性が立って、咲良に向かって片手を上げた。

結婚式のときも、坊主に髭を生やし色付きの眼鏡を掛けて、いかにもって感じだったけど、ますますイカつさに磨きがかかっている。
咲良がいなかったら、目すら合わせられないレベルだ。


「あ、お久しぶりっす、里緒奈さん。元気にしてました?」

光輝さんは、咲良の後ろにいた私に気付くなり、ニコリと笑って声を掛けてくれる。

とは言え見た目は怖くても、話せば普通の人(よりむしろいい人かもしれない)なんだから、外見で判断しちゃいけないってことだよね。

「元気だったよー。光輝さんも相変わらずで」

「なんすか、相変わらずって。坊主と髭は俺のモットーすから。これだけは変えられないっす」

「アハハ、モットーってなに?本当面白いよね、光輝さんは」

「モットーって言ったらモットーすよ。それより最近バイクいじってます?」

バイク好きで、同じバイク好きの咲良に猛アタックをしただけある光輝さんは、私とも会うなりバイクの話で盛り上がる。

半年前も咲良の家で明け方近くまで三人バイクの話をしてて、話題は尽きることはない。


「てかさ、このあと家んちで飲みなおす?光輝も飲みたいでしょ?」

「おお!いいね。里緒奈さんは大丈夫すか?」

「うん、全然問題ないよ。じゃあ行きますか!」




このとき、携帯が震えていた気がしたけど、話に夢中で見ることすらしなかった。
そのことが、この後ちょっとした事態に発展するとは、そのときの私は知る由もなかった。