「あっちが今のままでいいって言ってるんだから、素直に受け止めたら?後々のことなんて考えていたら、いつまでも前に進んでいけないよ?」

「……うん」

「先のことなんて誰も分からない。もちろん私だってそう。今は旦那と上手くやってるけど、いつ仲が悪くなるかなんてわからないし。だけど、今を大切にしなかったら、未来への道が開くことはないんだよ。そのときに後悔するのは自分。行動した後の後悔よりも、行動しなかった後の後悔の方がきっと大きいから」

咲良の言葉は重い。
私と違って、色んな経験をしているだけはある。

「私さあ、高校の頃好きな人がいたんだよね。だけど、自信がなくて話しかけることすら出来なかったの。そのうちその人が別の人と付き合っちゃって、そのとき凄い後悔したよ。勇気を出して声を掛けていたら、もしかしたらあの人の隣にいたのは私だったんじゃないかって」

「え?咲良にそんな過去が……?」

「あんときの里緒奈は恋愛とかより、機械いじりの方にハマっちゃって話せなかったんだけど、実はそんな経験があるのよ。その後少し投げやりになって、告白してきた人と片っ端から付き合ってみたけど、やっぱり上手くいかなくてさ。高校卒業するまで、ずっと引きずってたよ、その人のこと」

咲良は切ない表情を浮かべて話す。

私はそのことを咲良に教えてもらえなかったことに、少しショックだったけれど、でも高校の頃の私に言ったところで、さほど恋に対して興味があったわけじゃないから、まあ仕方のないことだろう。

それよりも。

行動するよりも、しない方の後悔の方が大きい、か。
その言葉、凄く響くなあ……。

「仕事だって、やって失敗するのとやらずに失敗するのじゃ大きな違いがあるでしょう?恋だって同じだよ。一歩を踏み出さなきゃそれで終わり。その先はもうないかもしれない。里緒奈にとって、これは最後の恋かもしれないんだよ」

「最後の恋って失礼な……」

「うんとね、もう恋愛できないとかじゃなく、こんなに相手を考えて悩んでって出来る恋愛が、もしかしたらもうないかもって意味ね。年を取れば焦っちゃって、適当な人と惰性で付き合って結婚してしまうかもしれないってこと。自分が納得すればそれでも幸せだけど。……でもさ、ふとしたときにその人のことを思い出したら、きっと辛くなるよ」