「ついに里緒奈にも春がやってきた。その話聞いてもう冬だってのに、花満開だよ」

咲良はビールの入ったジョッキを片手に、私の話に驚きを隠せないようだ。
グッとそれを飲み干し、お代わりを要求する。
私は呼び出しボタンを押し、話を続けた。

「春っていうか……。すんごい戸惑ってんのよ、私は。ねえ、どうしたらいいと思う?」

「どうしたらって、顔もいいし、性格も問題ない。それに職場だって申し分ない。なにを悩むことがあるのよ」

「いやだから、私の気持ちがさ」

「嫌いなの?生理的に受け付けないとか?それならしょうがないけど、そうじゃないんでしょ?」

そう言われたところで、店員がやって来る。
咲良はビールと簡単なつまみを注文し、そしてまた私へ目線を戻した。

「嫌いじゃないよ。少し強引なところがちょっと困りはするけど、でもいい人だと思う。だからこそ、こんな私のなにがいいのか分からないんだ。だって私よりももっと美人で女らしい人がいっぱいいるし、岡田さんもただムキになって、私に言い寄ってるだけなんじゃないかって、不安なんだよ」

「……里緒奈らしくないね」

「言われなくてもじゅうぶん知ってる」

普段はそんなに悩んだりもしないし、むしろ悩む前に面倒臭くなって考えるのを止める人間だった。
前の彼氏のときだって、そう。

悩む前にもう終わりだなって、思ってそれなりの行動をした。
さほど深くも考えない性格だった。

特に異性のことに関しては。


……なのに。

どうして岡田さんことに限っては、こんなに悩むんだろう。


「自分でも薄々気付いてはいるんでしょう?ただ認めたくないだけ。それを今認めさせてあげようか?里緒奈は岡田さんのことを、本気で好きになろうとしている。だから、悩んでいるんだよ」


「失礼しまーす」と、店員がビールとつまみを持ってテーブルへと置いた。
咲良は笑顔で店員に軽く頭を下げ、置かれたビールを口へと運ぶ。


咲良の言葉が、心に突き刺さる。


――本気で好きになろうとしている――