彼女が部品を削り終えた後のあの笑みは、どうも彼女の癖のようだった。
俺は行くたびに、彼女をチラチラと見ては、その笑みに胸を高鳴らせる。

たまに上手くいかなかったのか、険しい表情をするときもあるが、それもまた可愛いと思ってしまって。

そしていつの間にか、彼女に会いたいと菱沼に通う自分がいた。



ああ、そうか。俺は彼女に恋をしてしまったんだな。


そう気付くのには、時間はかからなかった。



……しかし。

彼女を好きになったとはいえ、どうやって声を掛けたらいいか分からない。

彼女はまだまだ下っ端の作業員で、俺は主に課長と作業責任者と話をしながら仕事を進めていくわけで。
彼女との接点は、朝にたまたま会社であったときに挨拶を交わすくらいだ。


挨拶のときに、ついでになにげない話題でも振ってみるか?

でもなあ、いきなりそんな馴れ馴れしくしたら、変な人に思われちゃうよな。

じゃあ、思い切って作業中に声を掛けてみるか。

……いや、研磨中は危険だ。それで怪我をされたら困る。


なにが好きで、どんな趣味があって。

彼氏はいるんだろうか?

まさか、結婚はしてないよな?



知りたいことが頭の中をめぐる。



……だけど、それを彼女に聞く勇気がどうしても出ずに。

ただただ、彼女の作業姿を見ているだけしか出来なかった。