―――そして、四月。


……ごくり。

私は目の前の紙を前に、息を飲んだ。
それは、もうほとんど記入してある婚姻届。
空欄なのは私の記入欄だけである。

証人はどうやら岡田さんの上司と、東雲課長だった。

……課長め、私の知らない間にいつ書いたんだ?

仕事を辞めてから、タイへ引っ越すための準備を少しづつやっていて。
部屋もだいぶスッキリとしていた。

部屋の隅には段ボールの箱が積み重なって置かれている。

あまり使わない細かいものはもうほとんど詰めてしまって、部屋の中には大きな家具しか置かれていない。
そんな引っ越しの準備をしているときに、岡田さんに呼ばれてリビングに行ってみると、テーブルにこの婚姻届けが置かれていたのだ。


「ほ、本当に書くんだよね?」

「うん。書いて。書かないと夫婦にはなれないよ?」


向かいには早く書けよ、と言わんばかりのオーラを出しながら、ニコニコと笑みを浮かべた岡田さんが座っている。

そのオーラに負けて、ペンを構えた。

「今日、出すんだ」

「うん。特別な日でもないけど、ほら、今日大安だし。俺、休みだし」

壁にかかったカレンダーを見ると、たしかに『大安』と書かれている。
あまりそういうのにこだわる人ではないけど、確かに仏滅に出すよりは縁起がいいか。

そう納得して、ゆっくりと記入を始めた。

これを書いて提出したら、夫婦になる。
『真壁』ではなく『岡田』になるんだ。