振り向けない。 だけど今、確かに──。 「あさひ」 もう一度、呼ばれる。 自分の心臓の音が嫌というほど大きく聞こえた。 ゆっくり、本当にゆっくりと身体を後ろに向けて、ようやく彼の足元を見る。 上履きに書かれた、“矢代”というニ文字。 「……み、」 ──瑞季くん。 口からこぼれそうになったその名前を慌てて飲み込む。 「やしろ、くん」 声が震えた。 思い切って顔を上げると、相変わらず綺麗で、冷たい瑞季くんの顔がそこにあって。