「……もしもし」

『瑞季様』



相手は、生駒さん。



ただ名前を呼ばれただけ。いつもと変わらない声で。


それなのに、なぜか、一瞬でその場に凍りついてしまった。




さっきの依吹からの電話で、生駒さんが俺を心配していることは知っている。


同じ内容でわざわざかけてくるなんてことはあり得ない。



俺から生駒さんに掛けることはあっても、何か特別なことでもない限り、生駒さんから俺にかかってくることは滅多にないからだ。




──そう。何か、特別な……こと。




『旦那様が急遽、お戻りになられました』



頭の中は、妙に冷静だった。




『今、瑞季様をお迎えにあがりますので──』

「学校にいる。……いつもの道、歩いて帰ってるから」



返事を待たずに切った。

さっきまで平常だった鼓動が音を変えた。

ドク、と冷たい音を鳴らす。