「……矢代さ、」
「うん」
吐き出す息が相変わらず白い。
「あいつ秘密主義だから、俺も詳しいことはわかんないし、言えないんだけど」
「うん」
「あいつの言うことは、なるべく信じてやって」
「……」
いきなり何を言い出すのかと思った。
以前は「やめといた方がいい」なんて言ってて、今度は「信じてやって」。
まるで、瑞季くんの一番の理解者みたいな言い方。
「あさひちゃんが傷ついてもいいってくらい好きだとしたら、だよ。これはあくまでも」
角を曲がった。
白井先生の声が、わずかながら聞こえてくる。
私たちを待つことなく、授業は始まってるみたいだ。
「本心であって、本心じゃない」
「……何、が?……どういうこと?」
「俺だって時々わからなくなる。自分のしたいことと、しなきゃいけないこと。ごっちゃになって気が狂いそうだ」
伏せられた瞳。
笑顔が消えた葛西くんは別人に見えた。
「……今のは忘れてね。とにかく、俺は……俺たちは、今のうちしか自由に遊べないってこと」



