1時間くらい経ったのかもしれない。

お店を出ると外はもう薄暗かった。




「瑞季くん、おごってくれてありがとう」


「いーよ。俺が誘ったんだし」



私の家の門の前で瑞季くんが足を止める。



もう……ここでバイバイしなきゃいけない。


何でもいいから、
もっと瑞季くんと話していたいのに。



 
「なんで今日、私と話してくれたの?」


「……」


質問には答えずにこちらを見下ろしてくる。

逆光で表情はよくわからなかった。


これも、聞いちゃダメなのかな……。




「明日も、一緒に帰っちゃだめ?」



最後のダメ押し。

瑞季くんは何も言わない。


少しだけ間が開いて、瑞季くんが笑った気がした。



「……待ってよ」



背を向けて歩き出す彼を引き止める。


すぐ側にいたのに、離れていくから。急に寂しさが募って、想いが溢れてきて止まらなくなる。



「だいすき」


無意識のうちに口からこぼれた。


我に返って、身体がカアッと熱くなる。



何言ってるの……。



瑞季くんが振り向く。


オレンジに染まる景色の中、

深いため息が聞こえたかと思うと、瑞季くんはカバンをその場におろした。



「今日だけだから」


「……えっ?」


「……おいで」


ドクン、と心臓が跳ねた。

恐る恐る近づくと、瞬間、ぐいっと強い力で引き寄せられた。



あったかい瑞季くんの体温。


ドキドキ、ドキドキ。


聞こえてくるこの音が、瑞季くんのだったらいいのに。



「また泣いてんの」

「……泣いてない」

「鼻水つけんなよ」

「……」


「そんなに、俺のこと好きなの」

「……うん」



すき。だいすき。


苦しいくらい、私はずっと……。



「俺は嫌い」


「………知ってるもん」



ドキドキ、ズキズキ。

胸の中はぐっちゃぐちゃ。


だけど今、瑞季くんが抱きしめてくれてるのは現実で。



瑞季くんが私のこと嫌っててもいい。

だから、せめて……



「好きでいてもいいかな……」


視線が絡む。



「……知らない」


無機質な声。

だけど、優しい表情だった──。