「──瑞季様」
ふと、前方から飛んできた声に顔を上げる。
あまりに静かで落ち着いたその声、確かに覚えてる。
道路の隅に停められた黒いリムジン。
後部座席の扉に手を添えて立っているのは、生駒さん。
細身の体に黒のウエストコートがよく似合ってる。
最後にお会いしたのは、何年前だろう。
見た目の変わらなさに驚く。
乱れのない黒髪に真っ白な肌。にこにこと常に微笑んでいる顔が印象的で、それ以外の表情は見たことがない。
「あさひ様、お久しぶりです」
丁寧な辞儀をされて、つられたように私も頭を下げる。
様、だなんて。慣れなくてそわそわしてしまう。



