「……いや、だって、」言いづらそうな柊くんに、ぎゅっと鞄の紐を握り締める。
「泣きそうな顔、してる……ように、見えたから」
「ええ? してないよー」
声だけは明るくするよう努めたけれど、通じない気がした。
「……こっち見て」
無理。だってこんな顔見せたら、柊くんは戸惑う。どうしたのって聞いてくる。優しいから、気にしないでって言ってくれる。
待たされているのは柊くんのほうなのに。
『アンタらに指摘されるでもなく、ひまりは考えてるっつーの』
咲はああ言ってくれたけど、考えたって、なかなか行動に移せない。知りたいって、流されたくないって、自分で決めたいって思ってるけど。何も決められなくて、宙ぶらりんのまま。
そのくせ目を逸らされただけで、人づてにノートを返されただけで、土曜日のデートを隠されていただけで、悲しくなる。責めたくなる。先にどうしたのって思わせたのは、柊くんでしょう?って。
こんなの、自分勝手すぎる。
「ひまり、」
触れてくる柊くんの手を弱々しく退けて、右手の甲で顔を隠した。
「ごめん、違う。違うのこれは、ちょっと、咲に、からかわれて……」
「それは聞こえてたよ。でも、ひまり、俺を見たじゃん」
「……」
「俺を見て、泣きそうな顔した。……なんで?」
そんなの、わからない。


