焦ったじゃんか!
そう頭に浮かんで、心のもやもやが膨れ上がっていくのを感じた。
焦った……って、何。する必要、ないでしょ。柊くんはモテるんだから。狙ってる子なんていっぱいいるんだから。
こんなことに、いちいち反応なんて、していられない。……しちゃダメなんだよ。柊くん相手に私なんかが、一丁前にそんなこと……いい笑い者だ。
「ひまり? ねー。……怒った?」
咲から手を離し、落としていた視線を、柊くんのいるほうへ向けた。
……不思議だよね。どうしてこんなに毎回、目が合うんだろう。ふっくんや横居さんたちだっているのに。迷うことなく、真っ直ぐに。
「帰る」
「はっ!? 咲まだメイク終わってない、って、速いわ待って!」
急に瞼の周りが熱くなったから、鞄を引っ掴んで席を立った。咲の制止も聞かずに、今度は柊くんのほうを見ないように、教室を出る。
ガタンッ、と音がしたのは、私がドアにぶつかったわけじゃない。
「――ひまりっ」
……なんで追いかけてくるの。
そうやって私、いつも、追いかけさせてばかり。
「待って! なあ、ちょっと……っストップストップ! どうしたっ」
行く手を阻まれて、足を止められても、顔を上げられない。私、きっと今、史上最高にブサイクな顔してる。
「なに、が? どうもしないよ」
だから、放っておいて。追いかけて、こないで。返事もしてないくせに、やきもちやく私なんか。


