柊くんは私のことが好きらしい


「――!」

とっさに顔を背けてしまった。だけど頭に目が合った柊くんの姿が残ったまま。


……バカだ。こんな、あからさまに。さっき逸らされたからって、私まで逸らす必要ないのに。


でも今のは、反射だ。そんなの逆らいようないっていうか、ね。……うん。だから、なんでもない。


なんてことないよ。こんな、情けない気持ち。


「ちょっと。なーにー。遊ばないでよ」


私の前で横向きに座る咲の長いツインテールを、黙々と三つ編みにして時間を潰すけれど、きゃははと楽し気な笑い声は強まる一方で。


同じ教室にいるのに……全く違う世界に、迷い込んでしまったみたい。


「つか、横居たちうっさい。わざとかってくらい、うるさくない?」

「いつも通りかと」

「マジで言ってんの。咲は知ってんだから。あいつらぜーったい調子のってんだよ」

「……そんなことないって」


否定するたび、まるで黒い雲が胸の奥で大きくなっていく。


「ほ~ら触った。す~ぐ触る。べたべたすりゃどきどきするとでも思ってんのか。ないわー。ああほら、今度は膝の上に」


ばっと柊くんを見たら、その膝に女子が……座ってなんかいなかった。


思わず眉を寄せれば、咲はべーっと舌を出してくる。それを見て、何も言わずにいる私が悪いって思った。けど、


「ぎゃー! ちょっとバカ! 馬鹿力! からかっただけじゃんーっ!」


マスカラを持った咲の手を握りしめ、パンダ目にしてやろうかとも思った。