「あ。おはよー」
うしろのドアから教室に入った途端、ナチュラルに笑いかけられる、不意打ち。
どん、と胸の内側が思いっきり叩かれたような衝撃に、危うく意識を飛ばしてしまいそうになった。
なんでもう教室に!? しかもそんな囲まれて……! いや今はそんなことより挨拶!
「あ、わ……お、おはようっ!」
「泡?」
ヒィ! 噛んだ上に突っ込まれた! 恥ずかしい!
「何あれガチガチじゃん」
「高遠さんウケる」
(笑)って顔に書いてあるしなああもぉおお!
「今のはメグが悪い」
「え、俺!? なんでっ。挨拶くらいするだろ!」
そんでもって悪気なく素でやっちゃうところがさあ、もう! もうっ、本当……ダメだなあ。
そそくさと席へ着いて、今度は自分の態度に意気消沈。
テンパりすぎ。すぐ固まるのよくない。逃げてばっかり。本日の朝もいいところなし!
今日こそ自分から挨拶したかったのに……。
返すだけで精一杯だった相手は、男女入り混じるグループの真ん中で今日も笑ってる。
驚いたり、困ったり、真顔になったり。どんな表情になっても、きらきらと眩しく輝いて見える。
――おはよう、柊(ひいらぎ)くん。
言えずに呑み込むだけの挨拶を、明日こそ。
毎日意気込んだって今日も失敗に終わったけれど、日は重ねるごとに現実味を帯びてくる。
教室に入ってすぐ笑い掛けてくれた彼こそが、私に告白してくれた、はじめての人。