柊くんは私のことが好きらしい


身動きひとつとるたび。人影に重なるたび。ちらりと私を見た瞳が、何事もなかったようにクラスメイトへ、ボールへ逸らされる。


変わってないなあ……私も、柊くんも。


『割り込んでほしいんだ。俺が誰といても、隣に来てほしいって。話しかけてほしいって』


今もそんな風に思ってくれているとしたら、立ち上がらないわけにはいかないじゃない。


でもさ、ちょっとずるくない?


私自身、少しも頑張ってないくせにって思ったことはあるし、柊くんに見透かされている部分もあるけどさ。


私が嫌がっても、困っても、彼女だって自慢してくれるんじゃなかったの?


話し掛ける前から嬉しそうにされては、悔しくなってしまう。でも口にはできず、第一声も浮かばなかったため、素通りしてしまった。


「えっ」


歩み寄る私に気付き待っていた柊くんの驚きは当然だろうけど、これで割り込んだってことにして……もらっちゃ二の舞でしょうが!


ぐるりと踵を返した私は柊くんと向き合う。


「と、特に、用は、ないんだけど……」


一音発するたび頬の赤みが増したのに、柊くんはぽかんと開けた口から笑い声をあげた。


「ははっ! なんだよそれーっ」


本当にね。何を言っちゃってるんだ私は。至近距離の笑顔にときめいてる場合じゃない。