「もっと堂々としたらどうなの」

「いや、べつに隠してるわけじゃないし……」

「そうじゃなくてさあ。ひまり、咲が言ったこと忘れてんの? 交際宣言しただけでひと安心ってか」


……、うん?

首を傾げた私を、咲はフッと憐れむように、半ば愉快そうにほくそ笑んだ。


「こりゃ横居が付け入り放題だわ」

「それは嫌だ!!」


反射的に拒絶反応が出たことではっと気付く。


『努力しないと一緒に過ごせるはずの時間は削られる一方ってこと』


柊くんの彼女になることの大変さを、咲はそんな風に言っていた。宿命だとも。


そうだった。私に告白したと学校中に知られたあとでも、柊くんに告白する女の子たちはいたんだった。


……え。それって私が彼女になったあともあり得る?


「か、彼女になった意味……!」

「意味じゃなくて威厳を出せって言ってんのよ」

「そんな重々しさが私に出せると!?」


無理でしょう! スペック何それ状態の私には無理でしょう!


「ひまりーんっ!」

「ぎゃあ!」


突然背後から抱きつかれ素っ頓狂な声を発したというのに、みっちゃんは「おはよー!」と爽やかな笑顔。


「おはよう……びっくりした」

「あはは、ごめんごめん! それよりおめでと~!」

「う、あ、ありがとう……」


こうも素直におめでとうって言われると照れくさい。

付き合ったということは、学園祭の打ち上げが終わって解散するときに柊くんが何人かに話して広まったから、私はその場にいた女子数人に祝ってもらっただけだ。


もちろん横居さんの顔は怖くて見ないまま帰った。