落としていた視線は、伏せられた柊くんの目に釘付けになった。唇に柔らかな感触を捉えて数秒、それがゆっくりと名残惜しそうに離れていく。
もう触れてはいないのに、まだしているみたい。
だから最初は戸惑って、それでもぎこちなく、もう1回だけ、と。お互い引き寄せられるように、キスをした。
「……ね」
「うん?」
「照れる」
何かわいいこと言ってるんだこの人。私まで恥ずかしくなってきたじゃない。
照れると言ったそばからまたしてくるし……。
「柊、くん」
「うん。わかってる」
本当だろうか。キスの雨って、こんな状況を指すんじゃないかと思い始めてるんですが!
「あの、もう本当……いつ小鷹くんが戻ってくるか、わかんない、し……」
「ひまりはしたくない?」
そういうことは私がもっと経験値積んでから言ってほしいよね!!
「しっ、したくないわけじゃ……っ!」
「じゃあもう1回」
「わああああもぉおおお!!!」
バカバカ柊くんのバカ! からかって遊んでるでしょ! 気付いてるんだからな!
柊くんの胸を両手で押し返し、顔を背けた私の頭上から「ふっ」とおかしそうな笑い声。そんな人にはストレートパンチの刑だ。
「イテ。ははっ」
相変わらず全く威力はないけれど、二の腕を殴られても柊くんからは幸せオーラが漂ってくる。