「先行ってる」
「いや俺らは待ってねーよ! 待ってたのは、」
「柊くん……っ!」
わずかに、止まってくれたように見えた。だけど柊くんは確実に私から離れていく。
「おいマジか……」
呆気にとられているふっくんの横で私はゆっくりとうつむき、無視されたことを静かに受け止めていた。
わかってた。避けられているってことくらい。
胸がちくちく痛むけど、聞いてもらえない可能性がでてきただけ。それなら私は、
「出直したほうが、いいね」
今日じゃダメだったみたい。
そりゃそうだ。私ひとりが意気込んでも、柊くんは話したくない気持ちでいっぱいかもしれないんだから。
だけど、いつまで?
「明日なら、いいかなあ……」
ダメだったらどうしよう。いつになれば聞いてもらえるだろう。あさって? 来週?
もしかしたら、そんな日はこなかったりして。
……おかしいな。確かにちょっとはショックだったけど、なんで……。
「――っ俺やっぱ呼び戻して、」
突然腕を掴まれ、体が反転する。
滲む視界に、見覚えのあるバッシュケースが揺れていた。真新しいそれは、先週の土曜日に買ったもの。
「…………」
見上げた先で、陽に透けた黒髪がふわりと揺れている。後ろ姿で表情も見えなくて、会話だってできてないのに。腕を掴む手の熱さに、涙がこぼれそうになった。


