柊くんは私のことが好きらしい


でも駆け引きとか、本当にそんなんじゃないんだ。


素直になれなかった。不安ばっかり募らせて、逃げ出してしまった私が、悪い。


だからこの前のこと、ちゃんと謝って、話すんだ。持ち続けた不安も、生まれたばかりの希望も、全部。


……うん。だから、大丈夫。気になって引っ掛かっているものは、ひとつひとつ解いていけばいい。


「なんかスッキリした。ありがとう、ふたりとも」


笑いかけるとふたりは面食らったようだけど、私は胸の奥でたなびいていた靄が晴れていくようだった。


「ま、まあ、ひまりが元気そうでよかったよな! なっ」

「……何をうろたえてるんだ。気色悪い」

「そういうこと言うなよ傷付くだろ! 女子に笑顔でありがとうなんて嬉しいじゃんか! ひまりだとしても!」

「ちょっと、どういう意味」


突っ込みながらも笑っていれば、視界の隅に部室から出てきた人影を捉え、心臓がどきんと大きく脈打つ。


こ、の、緊張は考えてなかった……!


話したいことがあるって、勢いだけで来ちゃったから……なんて切り出せばいいのか。


とにかく声をかけないと始まらない。


けれどこちらへ向かってくる柊くんは、不自然なほど私たちを見ようとしない。


「メグやっと来たじゃん。おーい。おせえぞー……って、え、おい、まさかのスルー!?」


歩調を変えず渡り廊下を横切ろうとした柊くんは、ふっくんと顔を合わせても立ち止まることはなかった。