「はあ……どんな風に変わりたいかも聞かないで、無責任なものね」

「えー。だって、いつも通りの自分なんて、壊して試して初めてわかるもんだと思いまーす」


口をとがらせるふうちゃんに、眉をひそめていたお姉ちゃんが深く息を吐いた。


「アンタ、それらしいこと言って、ひまりの顔いじりたいだけでしょ」

「とかなんとか言って、お姉ちゃんだって準備万端、臨戦態勢のくせに」


えっ……。


ふうちゃんがにやりと笑うから、ベッドの下を見れば大きな黒いアルミボックスが置いてある。それが何であるかなんて、私が知らないはずがなかった。


冗談、でしょ……。


「ばっちりメイクするなんて嫌だからね!?」


何が楽しくてそんなこと! いち早く危険を察知した私は、ベッドの端まで身を引いた。


「いつも通りがわかんないっていうのは、態度のことで! 見た目じゃないから! いじったところで変わらないから!」


必死で訴えてるのに、美人でかわいいふたりの姉は顔を見合わせ、家族の誰とも似ていない妹の表情をおかしそうに笑うだけで。


「大丈夫よ。メイクっていうのは、かわいくなるためだけにするものじゃないから」


私の気持ちを汲んだかのように微笑んだお姉ちゃんの手は、確実にメイクボックスへ伸びていた。