世界が終わる音を聴いた


私はぼんやり、柵にもたれ掛かりながらサプライズ好きなヒナちゃんのいたずらな顔を思い出していた。
就職先のなかなか決まらない私がなんとかもぎ取った内定先を伝えると、ニヤリと笑っておめでとうを一言。
就職してから慣れてきた頃合いの6月、彼氏として連れてこられた学くんを見て、私は目を丸くした。
ヒナちゃんはいたずらに笑っていたし、学くんはそんなヒナちゃんを優しく見ていた。
職場で見せる“大石さん”の顔ではなく、ヒナちゃんの彼氏としての“学くん”の顔。
私はそんな“大石学”その人の姿を結局は追っていたのだろう。

たぶん憧れのお兄ちゃんだったその頃は『学くん』と、声に出して言えてた。
職場以外でも“大石さん”と呼び方を変えたのは、気持ちに気づいてからかもしれない。
気付いてしまえば、前にも後ろにも進めなくて、もうどうしようもないこの気持ちはたまに、いびつに歪んでいく。

いっそ壊してしまおうか。

そんなことを思ったことは一度や二度じゃない。
想いを伝えてしまえば壊れてしまうのは結局は自分達の関係の方だと言うことに躊躇してなにもしなかったのは自分だ。
この先の未来に、学くんと私が共に生きていくことなど不可能だと突き付けられて視界が歪む。
……あなたと出逢って育んだ、私の恋心は叶わぬまま朽ちていく。
俯いた反動で瞳から零れた涙は、コンクリートに染みを作った。