「何の話ですか?」
十分に話し終えたのか学くんは空いていた席に、失礼します、と座った。
「3年前に紹介したい人がいるからって来たことには驚いたわねって話よ?」
母は笑いながら言うと、それを受けて学くんは苦笑する。
「僕にとって、大切な人ですから。陽奈子とも約束してましたし」
「そうなの?」
「はい」
「病気には負けないって散々言ってたくせに」
溜め息混じりに母は呟く。
それを、にこやかに否定したのは菜々美さんだった。
「陽奈子さんは、病気には負けてなかったはずですよ、ずっと」
「そうですよ。僕に見せてくれた、最後の優しさで……、ずっと強がって見せてきた陽奈子の弱音です」
「そう、ね」
母は迷いながらも頷く。
一番近くで見てきたのだ、必死に生きてきた姿も、弱っていく姿も。
その脳裏には言葉では言い切れないほどの物が浮かんでいるのだろう。
「私もそう思うよ、お母さん。ヒナちゃんは弱音を吐けなかったんだから、大石さんにはちゃんと言えてたんだよ。不安じゃない人なんてきっといないから」
「そうね。負けた訳じゃないわね。最後までよく頑張った。我が子ながら天晴れだわ」
「病気が分かってからの方が、心が近くなったようにも思えるんです。皮肉ですけどね。『私の手を最後まで放さないで、一緒に闘ってくれたら、後は幸せになってね』って、言うんですよ」
「幸せになってね、かぁ」
「そう。だから、今が幸せじゃないとでも思ってるの?って聞いたら、同じだって笑ってた」



