当然のことだけれど、部屋は朝のまま。
そのまま冷房をつけると、一瞬だけむわっと空気が澱んだけれど、役目を果たすように冷房は部屋の温度を下げていく。
溜め息をついて部屋を見回すと、片付け途中の箱が目に飛び込んできた。
開けてくれないかと主張するようにポツリと置かれたその箱は、さっき私が整理を後回しにした箱。
……分かってるよ、ここに何があるのかなんて。
あと2日の猶予を待たず、私は諦めて、それに手を伸ばした。
蓋を開ければそこには懐かしい想いの残骸が詰まっていた。
叶えたかった夢の欠片、気づいてしまった想いの欠片。
私は荷物をベッドの脇に置いて、腰かける。
箱の中から取り出したのは、1冊の大学ノート。
そして小さな猫のぬいぐるみ。
大学ノートをめくると、乱雑な文字が書かれている。
書いては消し、上書きをし、ひとつのページはびっしりと埋まっていた。
夢を見ているような、ラブソング。
かっこいい先輩を見ては胸をときめかせていただけの時間。
楽しいだけが詰まった、どこにでもありそうな、恋の歌。
文字を追うと、頭の中でメロディになる。
それがあまりにも自然に出来るものだから、案外、自分はこの歌を気に入っていたのだと知る。
高校生くらいのときに必死に書いたこの歌は、拙くて、幼くて、けれど一生懸命で。
泣けちゃうくらい、輝いていた。
もう一度歌うなら、この歌を歌いたい。
芽生えたのは、今の私の素直な気持ち。
切ないも苦しいも諦めも味わった、今だから、また歌えるような気がする。
叶うはずのない未来に、寄り添える歌を歌いたい。
私は半ば無意識で電話を手にしていた。



