世界が終わる音を聴いた


その日も私たちは、ヒナちゃんと一緒に食事をしていた。
食べていたのはもうはっきりとは覚えていないけれど、きっとコンビニで買ったサンドイッチだとか、おにぎりだとか。
その日の食事中、ヒナちゃんがポツリと呟いたのだ。

「お母さんが作った、なすの煮浸しと“十六夜”のアクアパッツァをお腹一杯食べたいなぁ」

その言葉に私たちはなにも言えなくて。
一瞬の沈黙を破ったのは、ヒナちゃん自身。

「だから早く元気になるんだ」

そんなふうに笑うから、そうだね、と頷くしかできなかった。
信じるほどに現実は残酷に思えて、その強さに甘えていたのかもしれない。
『絶対負けない』『元気になったら』
弱っていく体を誰より知っているのに、そう繰り返すヒナちゃんに、なんと言ってあげたら良かったのか。
何を言えば正解だったのか、それは未だにわからない。



それから程なく、自宅療養に切り替わったけれど、それは“最後の時間”を家族で過ごすことへの病院側からの配慮だったのかもしれないと今は思う。
自宅に居る間に母は、ヒナちゃんが食べたがった、なすの煮浸しを食卓に並べられたけれど、やはりそれも目一杯食べることは叶わず、一口二口程度のものだった。
けれど当時のヒナちゃんにはそれが目一杯だったのだ。
母の料理を口にして、美味しいと笑う姿は、昔と同じようで、違うようで、胸が軋んだ。