世界が終わる音を聴いた


私たち家族は、近所にあったということで、昔からよくこの十六夜に通っていた。
それこそ、このお店ができたくらいからだそう。
とはいえ当時の私は小学生位だし、かれこれ15年近く前のことなので記憶は曖昧だけれど。
とにもかくにも、ここは家族の思い出のつもった場所なのだ。
もちろん、大将も女将さんも顔馴染みで、当然ヒナちゃんのことも知っていた。
病気がわかったくらいから遠ざかっていたけれど、近所、ということでヒナちゃんが亡くなったこともどこからともなく聞いたのだろう。
久々に両親と3人で訪れたときには、女将さんは人目につかないように、母の手をぎゅっと握ってくれたし、その瞳は潤んでいた。
大将は大将で、何も言いこそしなかったものの、サービスだとヒナちゃんがよく食べていた“アクアパッツァ”を作ってくれた。
その時、私たちはなにも言わなかったけれど、通された席はよく家族で来たときに使わせてもらっていた席、まさに今座っている席で、テーブルセットも4人分にしてくれた。
このお店はもとからテーブルセットがされているお店だけれど、必要がないものは下げてから案内してくれるため、それは偶然ではなくて、ちゃんと“ヒナちゃんのために”用意されたテーブルセット。
その証拠に、料理と共に持ってきてくれた取り皿も4枚。
4人分のテーブルセットも、取り皿も。
大将と女将さんの心遣いだ。
目に見えない存在であっても、私たちは4人家族。
このお店はいつだって、私たちをそのように迎えてくれる。