ハデスが何者かという問いに明確な答えは出ない。
もちろん両親にも、他の人にも相談できる事案ではない。
そんなことを相談しようものなら、頭は大丈夫か、なんて心配されてしまうだろう。
両親に至っては、自分の子どもが居なくなるあの気持ちを味わうことになるのだ。
あのやるせない、どこにもぶつけようの無い想いをまた……。
どんなに覚悟をしていても、悲しい気持ちは消えない。
それなら、その時まで笑っていたい。
残された時間がわずかでも。
いや、残された時間がわずかだからこそ。
答えが見えた気がした。
「おはよう。さ、拝みましょうか」
「おはよう」
「うん。おはよう」
母の声を合図に、仏壇に手を合わせる。
いつも香る線香の香りが心を落ち着かせる。
ねぇ、ヒナちゃん。
私もうすぐ、そっちにいくみたい。
全然実感なんて無いけれど、どうやら本当みたいだよ。
お父さんとお母さん、また泣かせてしまうけど……許してね。
「さあさ、ご飯にしましょうか」
母は明るく言って立ち上がり、食卓につく。
炊飯器の蓋が開くと炊きたてのご飯の匂いが広がった。
生きるって、こういう何気ないことの繰り返しなんだ。
一人では生きていないんだ。
「いただきます」
皆で手を合わせて、賑やかに朝が始まる。
窓から射し込む太陽は明るいけれど、まだ朝だから夏特有のギラギラした暑さはない。
日が高くなる頃には、きっと今日も暑くなるんだろう。
開けた窓から温い風が入る。
ジージーと蝉が元気に鳴いていた。



