世界が終わる音を聴いた


私は幹太の隣に座って、幹太も歌に戻るわけでもなく、二人でしばらく談笑した。
私が18歳、幹太が20歳の時、ギターを手にした私が歌った“テネシーワルツ”に、立ち止まってくれたらしい。
ちょうどさっき、幹太が歌っていた、その歌だ。

好きなジャンルに拘りはないこと。
仕事の息抜きに、金曜、土曜の週二日だけストリートに出ていること。
ストリートに出ようと思ったのも、日々の仕事からのストレス解放だったこと。
今では、欠かせない趣味なんだそうだ。

「平日は結構、きっちり決めたサラリーマンだよ?chiyaには感謝してるんだ。楽しそうに歌っている姿が印象に残ってて……。だから、仕事で行き詰まったときに、たまたまここ通って思い出したんだ。また聴きたいって思ったけど、もうそこにchiyaは居なくなってて。それなら、と思って自分がやってみたらまんまとハマった」

屈託なく笑う幹太は、童顔というのも手伝ってとても幼く見える。

「プロになるつもりはないよ。そんな強い意思も素質もない。ここで歌ってるのは、ただ、気持ちがいいからってだけ」
「もったいない」
「chiyaこそ、もったいない」
「……私は、挫折組だもの。諦めたから、そこでおしまい。そもそも、そんな力無かったんだよ」

苦笑して言うと、幹太は笑顔を引っ込めて、真顔になる。
その真っ直ぐな瞳を見るのが怖くて、俯いた。

「少なくとも、あの頃のchiyaに、俺は救われた」

隣で、幹太が立つ気配がする。
パンパンッと、ズボンをはたく音がして顔を上げると、幹太は立ち上がってギターをケースに仕舞っていた。
ギターケースを背負って立つ幹太は、思ったよりも大きくて、男の人だなぁなんて、ぼんやりと考えた。

「来週も、来てよ。良かったら。……待ってるから」

振り向いた幹太の顔は、笑顔に戻っていて、なぜだか不意に涙が滲む。
ぼやけた視界で、幹太が遠ざかっていくのを見つめていた。

「知ったような顔して、……何にも知らないくせに」

呟いた言葉に一番傷ついたのは、私だ。
誰も、何も知るわけない。
だってすべてを諦めて殻に閉じ籠ったのは、他でもなく、私自身なんだから。