世界が終わる音を聴いた


落馬の衝撃から体を起こした息子の顔を俺は初めてまじまじと見る。
緩いウェーブがかった茶色の長髪で、整った顔立ちをしていた。
この男が、ルナを。
沸き上がる激情を鎮めるように声を絞り出した。

「罪も無き人の命を奪うのは、貴殿の家の慣わしか?」

痛みに顔をしかめつつ俺を見上げるが、その視界に突き付けられた短剣を認めると見事なまでにすっと青ざめた。
その視線が少し向こうの動かぬ父と剣先とを行き来する。
わなわなと唇が震えている。
父を奪われたことへの怒りか、それとも恐怖か。
ぐっと、更に短剣を突きつけるとへたりと後ずさる。

「人の命を軽んじるわりに、自らの命は惜しいか?」
「おぉ、お、お前は、誰だ?父上に何をした?いったい何の恨みがある?」

もはや恐怖におののき、視線は短剣から逸れることがない。
にじり寄れば、その分下がる。
骨折をしていても不思議ではないほどの落馬だったが、その痛みよりも直面する死への恐怖がこの男を動かしているのかもしれない。
何の恨みが、か。
人の命を奪うことに何の疑問も抱かない者の言葉だ。
人の命を奪うことなど、神でさえしないというのに。

「お前、俺が誰かわかっているのか?父上が誰だか、わかっているか?!」
「分かっているさ。この街の最高権力者だろう?……それも、今日で終わるさ」
「な!俺に何かしてみろ。誰も黙ってはいないぞ」
「安心しろ、死人は口を開けない」

そう言うや、俺は力を込めて切っ先をその体に埋め込み、勢いをつけて切り裂く。
力を失った体がこちらへ傾き、俺の体にもたれ掛かる。
見ると地面には血溜まりができている。
命を終えるには多少時間がかかるかもしれないが、騒ぎを聞き付けた人々がやって来るまでには動かなくなるだろう。

――ルナ、これは君のためにしたことじゃない。

すべてが俺の自己満足。
血で血を洗うなんてことは負のループへの序章でしかない。
分かってる。
けれど、そうせずにはいられなかったんだ。
正義感の強い君が、今の俺を見たら何て言うのだろう。
巡り会ってまた恋に落ちるどころか、嫌われてしまうのかもしれない。
それでもいい。