『あなたの望みを叶えよう。その代わり、俺をあなたの使用人にしてくれないか?』
訪れた屋敷の談話室で、柔和な笑みを称えるその人に俺は言った。
その人は人払いをすると、笑みを絶やさずに言ってのける。
『私の望み、とは?』
『その手に、酋長の命を』
『なんとまぁ、物騒な話ではないか』
『望んでいるだろう?あなたには、恨みがあるはずだ。……決して晴れることのない、恨みが』
『……』
笑みの奥に静かな炎がゆらゆらと揺れる。
右手で左手の甲をゆっくりとさすっている様を見れば、もう一押しといったところか。
『俺にも、ルナを奪われた恨みがある』
その言葉を発した瞬間に、瞳の色が変わった。
『あなたは、酋長に。俺は、その息子に。大切なものを奪われたのだ。仇を打ったあとは、俺のことを悪人に仕立て上げればいいさ。……俺は、奴らを打ったら、自害する』
『お前……』
『ルナのいないこの世界に生きることは、無意味だ』
『私にはできない選択だったな』
『あなたはそれでいいんだ。あなたには守るべきものがある』
『そうか。そう思うかね?』
『そうですよ、旦那様』
旦那様の笑みが濃くなり、俺が影になることを受け入れた。
もともとは優しい人だったのだそうだ。
噂に違わず、慈悲深く、寛大な。
それを変えてしまったのは一人の女と、酋長の存在だった。
……いや、変わったのではないのかもしれない。
優しすぎた故に、かもしれない。
その境遇にも同情すべき所はあるが、それを利用しようとしているのだから、俺は同情すらすべきではないのかもしれない。
俺はなるべく人目に触れぬよう、屋敷の中でさえも、人目に触れぬよう生活していた。
そして、ついにその日を迎えた。



