先ずはどのようにして近づくか、だ。
何せ俺には、隣街の酋長の息子、ということしか知らない。
顔もわからない上に、相手の身分を考えると俺に手だては無いようにも思える。
ならばどうするか?
出した答えは、面白味のないものだ。
「旦那様、お呼びでしたか?」
「来たか、ハデス。そこの靴を磨いてくれるかい?今日は酋長に会いに行かなくてはならなくなってね」
「かしこまりました」
「酋長の予定ではご子息とふたりで狩猟をするらしいんだが。引き立て役だろう、呼ばれてね。ハデスも一緒に行こうじゃないか」
「……ありがとう、ございます」
お礼を伝えると、旦那様は口角を上げて緩やかに笑む。
が、その瞳は笑うことなく、奥の方で青い炎が揺らめいているようだ。
旦那様、と言っても薔薇屋敷の旦那様ではない。
例の酋長が治める街の有力貴族だ。
笑顔が柔らかく、薔薇屋敷の旦那様と同じように外からの聞こえはいい。
が、居酒屋で働いている間に知ったのは、この御仁の黒い噂だ。
働いていたときは気にも止めなかったが、それがこのように役に立つのだから不思議な縁だ。
「このご恩は、忘れません」
「気にすることはないさ。……利害の一致、というものだ」
一礼をして下がり、支度をする。
旦那様の靴を磨き、そして……。



