それからのことは記憶が曖昧で、どうやって生活していたのかもおぼろ気だ。
ただ時間の流れが浮き彫りにさせたのは、深い絶望とルナを奪った相手への憎悪。
そしてに何より、ルナを守れなかった自分への後悔だ。
負の感情に囚われた俺が、行動に移すのに時間はかからなかった。
ルナが誰と結婚をするかは知っていた。
旦那様に嫌と言うほど聞かされていたからだ。
『ルナの相手は隣の街の酋長の息子だ。相手にとっても不足はなかろう。なぁ?そうは思わんか?』
言外に、お前ごときが高望みをするな、と言っているようなものだ。
ルナが俺といつも一緒にいることを良く思わない上での発言だったのだろう。
かわいい一人娘を得たいの知れない、それも使用人になどやれるはずもない。
旦那様は、俺の気持ちに気付いていたのかもしれない。
ゆらりと揺れるろうそくの火を消して、俺はこの部屋を出る。
バタン、と閉じた扉の音がやけに響く。
鍵を掛けようと扉に手を伸ばそうとして、やめた。
―――ここへはもう、きっと戻らない。
腰に忍ばせた短剣とピストルが重い。
踵を返し、夜の闇へと紛れていった。
待っていてくれ、ルナ。
きっと君の仇は打つから。
待っていてくれ。



