世界が終わる音を聴いた


ふたりを隔てるのは、他でもないふたり自身の想い。
まだ婚礼の儀式こそしていないが、決められた相手がいる未婚の女性が不義を働くなど有り得ない。
例えそれが自分の望まぬ相手との婚礼であったとしても。
まして俺の立場は使用人だ。
本来ならこんな風に君に触れることすら叶うはずがなかったんだ。

ゆっくりと、何度も。
この瞬間を噛み締めながら、時がこのまま止まればいいと、本気で思った。







もちろん、どれだけ願ったところで時は止まるはずもなく、ふたりには距離が戻る。
君の温もりが離れただけで、部屋の温度は下がったように感じた。
ルナの手がスッと伸び、俺の頬を触る。
そのままそっと撫でたその指は濡れていた。
さっきの彼女の涙がついたのか、それとも俺が流した涙なのか。
ルナは、にっこりと笑う。
その笑顔が眩しくて、胸が捕まれる。
君をこのまま連れ去ってしまいたい。
先程よりも強い想いが今にも飛び出しそうだ。
伸ばしかけた手は空を切り、代わりに紡ぐ別れの言葉。

「ありがとう」
「さよなら」

これが君と交わす、最後の言葉。
君の晴れの姿を見ることなく、俺はこの屋敷を去った。
最後に見た景色は君が好きだといっていた庭の、雪で染まった銀世界だった。