世界が終わる音を聴いた


「菜々美さんは嫌じゃないんですか?旦那さんの昔の彼女のお参りに来るなんて。まして自分も行くだなんて」

菜々美さんは驚いたような表情をしたけれど、遠くを見つめて笑った。
その顔を見て、何故だかさっきまであった重たいものは小さくなっていくのを感じていた。
それが何故かも、何となく分かっていた。

「そうねぇ。……でもそれがあの人だから。そうでなきゃ、好きになんてなってないのよ」
「そう、ですか?」
「そうよ。でもまぁ、複雑ではあるのよ。陽奈子さんの存在がなければ、今の私たちは居ないと思う。それは確かよ?でもね、嫉妬心が全く無いって言ったらやっぱり、嘘になるわね。悔しいからそんなこと言ってあげないけれど」

おどけた彼女はチャーミングだと思う。
屈託がなく、嫌味もなく、ズルさもない。
分かるよ、学くんがこの人をなんで選んだか、なんて。
嫌な人を好きになるような人じゃない。

「あのね、千夜ちゃん。私も聖母じゃないから時には陽奈子さんに対して醜い心を持ってしまうこともあるわ。だってあの人の心のなかに、この先もずっと永遠に住み続けるのよ?それってずるいと思わない?」

ぎこちなく私は頷く。
菜々美さんはそれに答えるように、にこりと笑う。

「でもね、この子が居るから。陽奈子さん、きっと私とこの子に、あの人のことを託したんだわ」

今度はまるで女神様のような慈愛に満ちた表情で菜々美さんは自身のまぁるく大きなお腹をさする。

「泣かないで?」

知らぬ間にまた流れていた涙の奥で、太陽が街を赤く染めている。