バイバイ、と手を振って私は足早に駅へと向かう。
泣き顔を人に見られないように少し息を整えようと脇道に入った。
大通りとは違い、一本脇道に入っただけで人通りが少なくなるのがありがたい。
ガードレールに軽く腰かけるようにして立ち止まって、涙が止まるのを待っていると、見知った顔が歩いてくる。
それは、今一番見たくない人。
だけど私はそれを表に出すことができなくて、無視することもできない。
待ち合わせをしているのだから、近くにいることなんて分かってたはずなのに、なんでこんなところで立ち止まってしまったんだろう。
気づかれる前にこの涙を拭ってしまわなくちゃ。
「千夜ちゃん?」
似た者夫婦なのか菜々美さんが声をかけてきた。
大きなお腹にデパートの袋を下げている。
私は腰を浮かせて立ち上がり、ペコリとお辞儀をする。
そう言えばこの道は菜々美さんが持っているデパートへ行く近道だったっけ、と思い至る。
「何かあったの?」
「いえ、大丈夫です」
と言っても、この顔に説得力は無いだろう。
だけどそこには触れずに菜々美さんは、毎日暑いわね、と言った。
その姿は誰がどう見ても幸せそうな大人の女性で、胸が重たくなった。
「駅?行きましょうか」
と、菜々美さんは歩き出した。
私はそこから動けないままで、立ちすくむ。
私が行き着く先は、天国なのか、地獄なのか。
天国も地獄も、きっと同じ。
全てが美しい世界など有りはしないし、また同じように全てが悪の世界も存在などしないんだろう。
光があれば影があるように、それは表裏。
ひとつの世界だ。
羨む心は妬みを生む。
動かない私に気付いたのか、菜々美さんは先を行くことなく振り返り、私の背負っているギターを見て微笑む。
「いつか千夜ちゃんの歌を聞かせてね」
私はそれには答えずに、重たいものを吐き出すように問う。



