カウベルの音を背に、私は家路を急ぐ。
お昼ほどの暑さは今はなくなったけれど、それでも蒸し暑さが少しだけ残っている。
きっも明日も暑いんだろう。
18時半を回り、ようやく太陽が沈む気配を見せている。
これから夕暮れの一瞬が街を染めていくだろう。
「千夜ちゃん!」
駅前の大通を歩いていると、呼び止められた。
この呼び方をする男の人なんて、私はひとりしか知らない。
振り返るとやっぱりそこには学くんが居た。
「大石さん。どうしたんですか?」
「いや?菜々美が出掛けててね。ちょうど時間が良いから待ち合わせて家帰る途中だけど、千夜ちゃんの姿が見えたから」
「菜々美さんは?」
「今こっちに向かってる」
「そうですか」
じゃあ、といって去ろうとしたところを学くんによって阻まれた。
「陽奈子がね、言ってたことがある。千夜ちゃんは要領がいいように見えて、たまにとても不器用なところがあるから心配だ、って」
予想もしてないところでヒナちゃんの名前を出されて驚く。
私が何も言わずにいると学くんはそのまま続ける。
「もう一度、好きなものに手を伸ばすことができたんだ?」
姉から見た私は、きっととても不器用で意地っ張りだったのだろう。
心配性なヒナちゃんは、どこまでも私の“お姉ちゃん”だ。
私はひとつ頷くことが精一杯で、それを見た学くんは、良かったね、と言った。
私はそれに何も言えず押し黙る。
少しの沈黙を破ったのは学くんの携帯の着信だった。



