先に纏めちゃって?と、言われてそのまま髪をくくると、シキさんはいつもの微笑みのまま言葉を続けた。
「誤解しないでね?期待してないわけではないのよ。むしろ逆。……あのね、chiyaちゃん、あなたの持ってる全ては綺麗事ではないわ」
「はぁ……」
「どんな心境の変化をもって今日歌ってくれる気になったのか。それなのに、今の間にあなたに何があったのか、私は知らない。でもね、chiyaちゃん。人間は綺麗事だけでは生きてはいないわ。あなたも、私も、他の誰でも、よ」
確かに清流のように澄みきった人なんて砂漠の中から目的の砂粒を見つけるような物だろう。
「だからその、綺麗だけじゃない物も含めて全てを大切に包み込んで歌えるのなら、それでいいと思うのよ。歌い手として音楽に誠実であればただそれだけで」
目から鱗、とはこの事かもしれない。
そんなことを考えたこともなかった。
綺麗事では済まされない何かさえも抱き締めて、それさえも大切にしてしまえばいいなんて。
清廉潔白は多くの人が憧れるものだ。
けれどそれは同時に、多くの人がそうではない、ということだ。
誰もが迷い、間違い、うちひしがれ、それでもなお足掻き、抗い、苦しみ、喜び、生きていく。
だから人はそれらを感じる歌に惹かれ、求め、焦がれるのだ。
だからシキさんの歌には涙がこぼれそうになるのだ。
「さぁ、chiyaちゃん、時間だわ。楽しんでいらっしゃい」
にこやかに、文字通り背中を押されて私は準備を済ませ、オンステージに立った。



