「で、返事は?」

その言葉を聞いたとたん、私は体をびくつかせてしまった。
いまだ告白されたことさえ受け止めきれていないのに、返事なんて考えられるはずもないじゃん。

永屋さんはため息を一つ吐き出し、「……と言いたいところだけど」と続ける。

「俺、仕事に私情は挟まない主義なんだよね。朝からこんな話できないから、今度、暇な日を教えて。一緒に飯でも食べに行こうよ。和賀さんも仕事中は俺の言ったこと忘れて」

「はあ」


それは助かります。
ただでさえテンパっているんだよ仕事だってさぁ。

ここに来て、初めて尽くしのことが多すぎて、どうしたらいいんだかさっぱりだよ。





会社について、エレベーターのところで、上の階まで行く永屋さんとはお別れ。
先に下りてひとりになって、ホッとして大きなため息をついたところで、美波ちゃんから声をかけられた。

「あ、おはよう。香澄ちゃん」

「おはよう」

安堵感で倒れそう。
余程酷い顔をしていたのか、美波ちゃんは目を丸くする。

「どうしたの? 永屋さんとなんかあった? 見てたよー。朝から一緒に通勤してたの」

「え? や、あれは、駅で会っただけで」

「金曜の夜、あの後何もなかったの? あんなにガツガツ行く永屋さんも珍しいなぁって思ったんだけど」

「ガツガツ?」

「うん。あの後誘われたりしなかったの?」

「誘われ……いや、ない! ないよ!」


あれは永屋さんの具合が悪かったから。
だから私に甘えてきてただけでそれだけなんだから。


『俺、和賀さんのこと好きだよ』


でもあんなこと言われた。
好意があったのだとしたら、酔ってたのも演技だったのかな。
どこまでが本当なんだ?

永屋さんって人がどんどんわからなくなってくる。


「ねぇ、美波ちゃん」

「ん?」


笑顔で私をのぞき込んでくる美波ちゃん。
相談したい……けど、こんなこと他の人に言っていいのか分からない。


「……仕事しよっか」

「え? ああ、もう始業時間なるね」

「死ぬ気でやる」


混乱する頭を冷静にするのに、他にやり方が思い付かない。