「飲みすぎですよ」

「ごめん」

「永屋さんがこんなに弱いなんて思わなかった」

「いつもはこんなに飲まないんだけどさ。……なんでかな、君といると飲みすぎちゃう」


そんなの知りませんよ。
一回面倒見たからって、酔いつぶれても面倒みてくれるとか思ってるんじゃないんだろうな。

渋々だけど、言われたとおりの道を歩く。
だけど、永屋さんの背が高いから、若干彼を引きずるようになるのですっごく疲れる。


「あ、雨だ」


ぽつ、ぽつ、と路面に点が描かれていく。
マジか。最悪。


「和賀さん。俺んちここ」


それは駅から五分も歩かない位置にあるアパートだった。
いいとこ住んでるな。ここなら朝ゆっくりできそうだよね。
近くにコンビニもあるし、駅前にはスーパーもあった。


「じゃあ、私、帰ります。これ以上遅くなると終電乗り遅れちゃいます」

「濡れるよ」

「そこのコンビニで傘買うので大丈夫です」


走り出そうとした手を、再び掴まれる。
そのタイミングで、雨足が強くなり、どんどん服にしみこんでいく。


「あの、……ちょっと」


離してくださいよ。

濡れてるのは私だけじゃない。立ち尽くしてる永屋さんの頭にも滴がどんどん染み込んでいく。


「帰るなよ」

「はい?」


顔を上げて永屋さんを覗き込むと、さっきよりも幾分顔から色が抜けている。


「……泊まっていきなよ」


私は耳を疑って、言葉も出ない。

はい?
あなた親と同居とかしてるんですか?

私があなたの部屋に泊まるとかあり得なくないですかね。

でもその憎まれ口は、口から外に出てくれない。代わりに、雨の音はどんどん強くなっていった。