「下りましょ、永屋さん」
次の停車駅で、私は永屋さんを引きずり下ろした。近くのベンチに連れて行き、座らせる。
「お水、いりますか」
パッと見、ホームに自販機はない。
改札まで行けばあるかしら。
彼はしばらく口元を押さえたままだったけれど、やがて顔を上げて「大丈夫そう」と立ち上がる。
「あ、じゃあ、電車乗れそうですか?」
「いや、俺んちの最寄り駅ここ」
なんだと?
言われてみれば、前にスマホで見せてもらった最寄り駅はこんな名前だったか。
「じゃあ、帰れますよね。私は次の電車乗りますよ?」
行ったと同時に、ホームには電車が滑り込んでくる。
ちょっと後ろ髪を引かれつつも、帰れなくなると困るしな、と一歩踏み出した途端。
腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。
無情にも目の前で閉まる扉。そして何事もなかったように電車は次の駅を目指す。
「なっ。乗れなかったじゃないですか!」
キッと後ろを睨むと、永屋さんが顔を赤くしている。
「……やっぱ、行かないで」
「なんで……そんな具合悪いんですか?」
「肩かしてよ」
「はあ」
仕方なく、素直に肩を貸す。すぐ上から感じる息は確かに酒臭い。