電車が来て、乗り込む。
あいにく混んでいて席は空いていない。永屋さんをドアの近くのポールに寄りかからせた。
「具合悪くなったらすぐおりますよ」
「んー。分かった」
可愛らしいお返事だなぁ。
なんか、昼間のすごく先輩面した永屋さんと比べると、ギャップありすぎて笑っちゃう。
「……田中と何かあった?」
「え?」
「なんか今日。田中やたらに和賀さんに絡むし」
「さあ。そんな気分なんじゃないですか?」
「俺が先に見つけたのにさ」
きゅっと、服の裾を握られる。
「……え?」
え、え、え。なにこれ。
なんだこの、小動物を前にしたときのような気持ち!
電車が駅に停車するたびに体が横に揺れる。
三駅ほど通過したあたりから、永屋さんが顔を押さえ始めた。
「あー」
「大丈夫ですか? 気持ち悪いんですか」
「……うん」
「じゃあ次、下りますか? まだ終電じゃないですしね」
「んー」
ガタン、と大きく電車が揺れる。永屋さんにばかり気がいっていたからか、私は自分の体を支えるのを忘れていた。バランスを崩し、永屋さんにもたれかかる。
「ひいっ、すいません」
「なんでそんな悲鳴みたいな……うっ」
「ひゃあ、出そうですか?」
騒ぐ私たちに、当たり前だけど周りの人は不審なまなざしを向けてくる。
当たり前ですよね。電車で吐くとか駄目、ゼッタイ!



