結構飲み食いをしたので、時間は二十一時を回っていた。
「もう一軒行く?」
田中さんの誘いに、私と山海さんがまず首を振る。
「私はちょっと」
「親待ってるし」
それを見て、永屋さんと美波ちゃんも続けた。
「俺も、今日はいいや」
「私も飲み会続きで金欠なのでー」
不服そうな田中さんではあったけど、一人で行くのもつまらないらしい。
「ちぇ、せっかく明日休みなのにさ。まあいいや。じゃあ送っていこうか。和賀さん、家どこ?」
「あ、和賀さんは俺と沿線一緒だから」
田中さんとの間を遮るように、永屋さんが会話に入ってくる。
「駅まではみんな一緒じゃないですか。行きましょうよ」
美波ちゃんの声に合わせて、みんなの足が動き出した。
「なんか雨降りそうだなー」
「週末ずっと雨マークだったぞ」
「ちぇー、つまんねーの」
耳の近くで人の声。
なんか、不思議だな。
ディスプレイと文庫本がお友達で、人と話すのなんて大嫌い。
そんな私が、何人かとお酒を飲みながら、こんなふうに過ごすなんて。
物思いにふけっていたら、前からくるサラリーマンの集団とぶつかった。
「あ、悪い」
「いえ、こちらこそ」
「おっと、大丈夫?」
よろけて、転びそうになった体を支えてくれたのは田中さんで、「あ、すいません」と言いつつ私はずれた眼鏡を直す。



