「ほら、こっちこっち。ちゃんと仕事しなきゃ」
あまりにも笑顔で、それ以上聞いていいのか分からなくて、私は美波ちゃんに促されるまま会議スペースの椅子に座る。
「えっと」
仕事の話をすればいい?
でも、気になる。美波ちゃんの吹っ切れたような笑顔の意味が私には分からない。
黙ってしまった私に美波ちゃんは笑顔を見せた。
「……今日暇? ご飯食べに行かない?」
「う、うん」
「話、聞いてくれたら嬉しいんだけど」
同僚と食事なんてめんどくさいって、今までの私なら思っていた。
だけど今は素直に頷いていた。
美波ちゃんのことを知りたいって思えたから。
*
引き継ぎが終わったときには、定時を過ぎていた。
メールチェックや退勤処理などを済ませて、ふたり揃って外に出る。
「結構落ち着いた鍋のお店があるの。座席の仕切りが高いから、秘密の話したいときとかいいんだよー」
「へぇ。鍋ですか」
「うん。近くだよ? 行ったことない?」
「外食はほとんどしないから」
「香澄ちゃんってもしかして料理上手? 毎日自炊してるの? すごーい」
「すごく……はないけど。適当なものばっかりだし」
なんか。こんなふうに素直に褒められることもあんまりなんだよなぁ。
あ、でも、永屋さんも褒めてくれたっけ。朝食おいしいって言ってくれて、あれはひそかに嬉しかったな。



