私と岩田さんがエレベータで二階に下り、食堂に入ると、配膳の列に田中さんと山海さんが並んでいた。
「あ」
目が合ってしまった。こちらに気付いた田中さんはトレーを山海さんに託してつかつかと近寄ってくる。
すごく気まずいよ!
私も岩田さんも、一瞬固まってしまう。これはどうすればいいのだ。
「やあ、昨日はどうも」
「あの……昨日はその、すみませんでした」
一応謝ってみるものの、まあ私は悪くない……はずだ。ちょっと言い過ぎたかもしれないけれど、田中さんのあの酔い方はアウトでしょ。
しかし、田中さんは、予想外にクシャリと笑うと頭を掻いた。
「あ? なんかあったっけ?」
思わず顔が驚愕の表情で固まった。
まさかの覚えてないとか。あり得ないな、この人。
田中さんはまったく悪気がなさそうに頭を掻くと、「まあ酔っぱらいの席だから色々流そうよ。岩田さんとえーっと名前……」と私を見る。
そして相変わらず名前は覚えていないらしい。
「和賀です」
「そう、和賀さん。また飲み会しようよ。今後ともよろしくね」
昨日の気まずさとかを丸呑みする勢いで流して、田中さんは山海さんの隣に戻っていく。
あれだけあの場の空気を悪くしていて、翌朝にはこれだというならば、ある意味で凄い。
「結局田中さんって人に気を使わない人なんだよね。勢いで生きてるっていうか」



