その時、「美波ー!」と後ろから声が上がった。
神谷さんと川西さん。
いつも岩田さんと仲良くしているふたり組で昨日の合コンにもいたメンバー。
私が隣にいるの見て、顔つきが変わる。
あ、これも駄目なやつよ。
私といると、岩田さんまで変な目で見られる。
「あ、おはよ、ふたりとも」
屈託なく笑う岩田さん。私は、挨拶もそこそこに彼女に手を振った。
「ごめんなさい。用事思い出したので先に行きます」
「美波、ちょっと、こっち!」
同時に、ふたりが岩田さんを呼ぶ。
そうそう。岩田さんはそうやってみんなでいるのが似合ってますよ。
人に気配りのできる優しい人ですもん。
「えっ? あ、和賀さ……香澄ちゃん! お昼にね!」
私の背中に届いた声。
振り向けば、岩田さんが同僚に囲まれながらも私に手を振っている。
私は、軽く会釈をして小走りに会社に入った。
……耳に残る声は、本物ですか?
“香澄ちゃん”
よもや私がそんな呼び方をされる日が来るなんて、ちょっと信じられない。
ドッキリのカメラとか仕込まれてないかなと、周りを見渡してしまう。
人と話すのは怖い。
ドキドキする心臓に手を当てながら、ほんの少し、怖いとは違う感情が混ざっているのも感じる。
だって、人から好意を向けられるのは嬉しい……よね。
……これって人間として当たり前だよね?



