「ところで、永屋さんが追っていったんだけど会えた?」
「へっ」
その話題は今は心臓に悪い。
ここは何と答えればいいのか。目を泳がせて、考え続けて、結局私は「……いいえ」と答えた。
「そっか。永屋さんも酔ってたみたいだから心配してたんだけど大丈夫かな」
「大丈夫なんじゃないですかね」
相変わらず、心優しいんだな岩田さんは。
途中退席するような人間の後先まで私だったら興味ないけど。
しばらく会話が途切れて、私は落ち着かなくなってきて岩田さんをこっそり見る。
彼女は上機嫌のまま前を向いていたけれど、ふと、思い付いたように私の方を見た。
「ね。今日外出ないなら一緒にお昼食べない?」
「え? あ、はあ。私、食堂に行くつもりだったんですけど」
「私も。だから一緒に。行くとき声かけるね? それから同期だからさ、そのよそよそしい話し方やめようよ」
「あ、はい。……うん?」
「和賀さん、名前、香澄ちゃんっていうんだよね。子供の頃好きだった漫画の主人公と一緒って思ってたんだ。ねぇ、名前で呼んでもいい?」
「は、あ、ええ」
「私は美波でいいから」
「み、美波……ちゃん?」
「そう! 仲良くしようね!」



